広西黒茶比較|2006年六堡生茶と2005年広西野生六堡茶

Guangxi heicha hikaku eyecatch photo

猫儿山

広西の黒茶と聞いて、まず思い浮かぶのは梧州・蒼梧の六堡茶かもしれません。一方で、同じ広西でも桂林・猫児山には、六堡の伝統を土台にしながら独自の発酵を採るお茶があります。今回は、近い年代の二つ、蒼梧農家の 2006年六堡生茶 と 2005年広西野生六堡茶漓江乳雪 を比較してみます。

まず最初に六堡茶の歴史と、そして、よく質問いただくことの多い、いわゆる「生」と「熟」が六堡茶においては何を指すのかを整理します。

1. 六堡茶の歴史 – 蒼梧から海へ
六堡茶は、広西チワン族自治区梧州市蒼梧県の六堡鎮に由来する黒茶です。地名がそのまま茶名になっています。その歴史は古く、千年を超えるとも言われています。清・康熙年間の『蒼梧県志』には、六堡の茶が「味が醇で、一夜置いても変わらない」「色・香・味ともに佳」と記されています。嘉慶年間には、いわゆる「紅・濃・陳・醇」と独特の檳榔香で知られ、当時の中国名茶の一つに数えられました。

梧州は潯江・桂江・西江の合流点にあり、六堡茶は船で広東へ下り、さらに広州・港澳を経て東南アジアへ運ばれました。この水路はのちに 茶船古道 と呼ばれ、六堡茶は華僑社会で飲まれた 僑銷茶として知られていきます。19世紀末、南洋の錫鉱山などで働く華工たちのあいだでは、湿熱の土地で体を整える日常茶としても親しまれました。

近代以降は戦乱や流通の変化で盛衰があり、20世紀半ばからは工場生産と精制技術が進み、いま市場でよく見る「熟」寄りの六堡茶が広がります。一方で、加水渥堆をせず年月に任せる伝統・農家の「生」の系譜も残り、発祥の地・蒼梧では少なくなってはいるものの、今もその流れを継ぐお茶が作られています。今回の2006年蒼梧六堡生茶は、まさにその本流に近い「生」の系譜そのものです。
(注:現在「六堡茶」と名乗れる公式の産地保護は、おもに梧州です。一方で「広西六堡茶」という、広西のより広い地域を含む呼び方・枠もあります。桂林の野生六堡茶(漓江乳雪など)は、後者に近い位置づけです。)

2. 六堡茶は、どう作られるか – 六堡茶の「生」と「熟」
六堡茶の工程は大きく 初制(毛茶をつくる)と 精制(製品茶に仕上げる)に分かれます。いわゆる「生茶」「熟茶」の違いは、おもに精制にあります。

初制(生茶および熟茶共通)

  1. 摘採 : 芽葉を摘む
  2. 殺青 : 熱を加えて青臭さを止め、酵素の働きを抑える
  3. 揉捻 : 葉を揉んで形を整え、汁を出しやすくする
  4. 堆悶 : 揉んだ茶葉を積み、茶葉自身の水分で蒸らす(短時間の微発酵)
  5. 乾燥 : かつては松の薪を使用する伝統もあったが、現在は電熱・熱風が主流で、薪は少なくなっている

上記工程を経て毛茶(荒茶)になります。

精制(ここで「生茶」と「熟茶」が分かれる)
毛茶(荒茶)ができてからの仕上げです。

工程 生茶 熟茶
選別・拼配 する する
加水渥堆(水を加えて積み、微生物発酵を進める) しない する
蒸圧入篓(蒸して竹籠に詰める) する場合がある する場合が多い
その後 自然に寝かせて陳化(規格はないが、概ね数ヶ月〜数年以上) 陳化して出荷(規格上は渥堆後おおむね半年以上)
生:選別 →(蒸・籠詰め)→ 自然陳化
熟:選別 → 加水渥堆 →(蒸・籠詰め)→ 陳化

いちばん大きな違いは、加水渥堆をするかどうか です。

今回の2006年蒼梧六堡生茶は、加水渥堆なしの六堡生茶です。発祥の地・蒼梧の農家が伝統製法で作り、松薪で乾燥したうえで、北京にて黒茶の専門家である師匠が保管してきました。

3. 産地の違い — 温暖な蒼梧と、高冷の猫児山

広西黒茶地図

蒼梧・六堡は標高およそ600〜1000m、年平均気温は約21℃前後です。温暖湿潤で雲霧が多く、六堡茶の発祥の地です。桂林・龍脊はさらに涼しく約17〜18℃)です。猫児山周辺の茶産地は概ね標高1500m前後となり、山頂付近は平均約13℃前後とされ、昼夜の気温差が大きく、霧と夜露に恵まれた高冷山地です。

温暖な蒼梧では堆悶が進みやすく、涼しい桂林高地では、より長い時間をかけて発酵を設計する必要が出てきます。この桂林高地で作られる広西六堡茶の漓江乳雪に見られる発酵工程「日潤夜露」は、その土地柄、気候から生まれました。

4. 漓江乳雪と六堡生茶の違い
広西野生六堡茶 漓江乳雪は、六堡生茶の伝統製法をベースにしつつ、発酵以降の工程が一般的な六堡生茶とは異なります。

  • 摘採〜殺青・揉捻までは、六堡生茶と同じ流れ
  • そのあと、堆悶の延長ではなく 日潤夜露 へ
    • 日中:太陽の熱で茶葉を保温
    • 夜間:夜露を吸わせて水分を補う
      この自然の恵みだけを用いる工程を、概ね30日ほど続ける
  • 乾燥は松薪。伝統的な六堡でも行われてきた方法を取り入れている(ただし、松烟香を重視)
  • 原料は猫児山の野生喬木古樹(樹齢100年前後とされるもの)

日潤夜露は、安化黒茶の千両茶・花巻茶にある昼と夜の自然条件を使う「日晒夜露」の方法を参考に李宗俭老師が発案、その製法を確立させました。ただし、安化黒茶の千両茶・花巻茶は巻茶(竹籠に入れて緊圧したお茶)に対して行うことに対して、漓江乳雪は茶葉の段階で発酵そのものに用いる点が異なります。
つまり「六堡の仲間ではあるが、発酵方法が違う桂林産」です。梧州「六堡茶」そのものではなく、同じ広西のなかで分かれたもう一つの六堡茶です。

2006年 蒼梧 六堡生茶 2005年 広西野生六堡茶 漓江乳雪
産地 梧州・蒼梧(農家) 桂林・猫児山(野生喬木古樹)
位置づけ 六堡生茶の本流 六堡生茶の伝統を土台にした桂林産
発酵 堆悶のあと、年月による自然陳化 日潤夜露(概ね30日)
乾燥 松薪(いまは少なくなっている伝統法) 松薪(伝統を取り入れた仕上げ)
保管 北京 現地保管
印象の目安 香气清高、带鲜爽感 香气清纯、带松烟香

2006年蒼梧六堡生茶は、製造後に北京で保管されてきました。北方の乾いた環境で熟成が進んだため、南方保管にありがちな湿った癖は感じられません。二十年近い年月を経ても、輪郭がはっきりしたまま落ち着いています。

2005年広西野生六堡茶 漓江乳雪は現地で保管されてきました。南方の産地保管でありながら、湿った癖は感じられず、爽やかな骨格が保たれています。

5. 味で見る、広西の分岐点
おすすめは、先に蒼梧六堡生茶、そのあとに漓江乳雪、の順です。

2006年蒼梧六堡生茶は生茶としての骨格、檳榔香や陳香、農家茶らしい表情の変化を実感することができます。昔ながらの製法による、そして上質な茶葉を使用した綺麗で雑味のない六堡生茶のお手本のようなお茶です。20年が経過したことで、生茶が本来目指すところが実感しやすいと思います。そのあとに漓江乳雪へ移ると、松烟の優しさと、日潤夜露由来の爽やかさが際立ちます。こちらも20年近くが経過、桂林高地の山気と野生古茶樹のちからを借りて生まれた六堡生茶です。

どちらが上というのではなく、同じ広西のなかで分かれた二つの道、産地や発酵方法による違いが理解しやすいと思います。

006年 蒼梧・六堡 六堡生茶 明前1級
2006年 蒼梧・六堡 六堡生茶 明前1級

2005年 広西野生六堡茶 漓江乳雪
2005年 広西野生六堡茶 漓江乳雪


ご好評につき完売しておりました蘭香甘露です。 このたび、業務販売分を調整し、 わずかに再入荷いたしました。

中国・四川省の名茶、蒙頂甘露に 君子蘭の香りを移した花茶です。 茉莉花ではなく君子蘭を用いるため非常に珍しく、 清らかで品格のある蘭香と、 蒙頂甘露の優しく深い味わいが楽しめます。
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蘭香甘露 2026
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