厦門から鉄観音の産地、安渓までは車で1〜2時間ほどで到着します。しかしながら、安渓と一口に言ってもとても広く、安渓の市街地を中心としてもかなり広大なエリアで鉄観音は作られています。
今回はいつもお世話になっている感徳の茶農家さんを訪問させていただきましたが、安渓に到着したあとも山の中にずっと入っていくため、更に2時間以上かかる山奥にあります。
事前に話を聞いていたよりもずっと山奥のひっそりとした村で、住人よりも鶏や鴨などの家畜の方が多そうな静かな村でした。電気は通っているものの水道やガスはありません。水がとても綺麗な地域のため、山の水をそのまま使っています。
昔からの土壁で作られた家が殆どで、険しい山肌にかろうじて引っかかっているかのように建っています。
ここでは茶農家さんのお宅に滞在させていただき、鉄観音の製茶を見せていただきました。
集落のある場所から上の険しい山は殆どが茶畑になっています。この集落では無農薬、自然農法を徹底しているため、雑草もそのままです。
これには生活上の理由もあります。もちろん作るお茶の商品として無農薬、自然農法であることが価値を高めるということももちろんですが、これらの茶畑の斜面の下に位置する集落では山の水を生活用水として使っています。もちろん飲用にも利用しているため、水を得る山を汚さないということは自らの生活にも大事なことなのです。
歩くのも大変なほど険しい山肌を縫うように茶樹が植えられています。そのため、他の地域のように整然とした茶畑にはなっておらず、藪のような茶畑になっています。間には楊梅の木や、足元には山苺などの植物も豊富にあります。そのせいか鳥や虫をはじめとした生き物がとてもたくさんいる茶畑になっています。
おやつに山苺を食べながら茶畑を見学させていただきました。とても心地の良い茶畑でした。
既に製茶の始まっている製茶場へ。萎凋中の茶葉です。爽やかな花の香りが充満していて、小さな建物ですが、香りが充満しています。
山奥にあるため、平地よりもかなり気温は低いのですが、茶葉から発せられる熱で製茶場は暖かく、この時は萎凋の具合を冷房をつけたり消したりして調節していました。逆の場合もあります。製茶場はいつでも冷房、暖房と使えるように整備されています。
朝に摘み取られた茶葉です。基本的に鉄観音の茶葉は朝も早いうちから摘みはじめ、お昼頃には摘み取りを終了します。しかしながら、実際には1日中摘み取りが行われていることが殆どです。これは鉄観音に限らず、中国や台湾の茶産地で行われていることです。
この村では昔のまま、朝のみしか摘み取りを行いません。これは味わいや香りを最大限に良くするためということがあります。一方で摘み取りを行う人出が足りないという現状もあります。安渓は茶産地の中でもトップクラスの環境の良さ(製茶するための環境が整っているという意味で)ですが、安渓の中でもこのような山奥の村はあまりその恩恵を受けられていないようです。
摘み取り時期には摘み子さんが周辺地域からやってきますが、多くは安渓の中でも、もっとアクセスのしやすい産地の大規模な茶業さんのところへ行くことが殆どです。この村では家族で今も製茶を続けています。茶畑の中には人出が足りなくて摘み取りができない場所もあります。人手不足はこの村でも深刻な問題です。
私たちが到着したのがお昼過ぎということもあり、萎凋が終わった茶葉の揉捻を見せていただきました。ご存知のように丸い茶葉の鉄観音はこのように布で包む団揉と呼ばれる方法で行われます。
台湾でよく見ていたこの団揉ですが、やはり大陸の鉄観音とはまた方法が少し違います。また、台湾ではこの団揉を行う専門職の職人さんが製茶時期になると各茶業さんを回って仕事をしていることが多いのですが、安渓ではあまりそのような習慣はないとのこと。(とはいえ、安渓も広いので場所によって違うかもしれません。)特にこの村では家族総出で製茶を行うこともあり、この時は若い息子さんがお父さんに団揉の方法を教わりながら手伝っていました。こうして製茶が引き継がれていくのですね。それでも、こうした小さな山奥の村では過疎が進んでいるそうです。大手の茶業さんはともかく、小さなこうした村の茶農家では鉄観音といえども販路がすくなく、決して儲かる仕事ではありません。そのため、街に出てお茶とは関係のない仕事に就くことも多く、廃業する茶農家さんも増えているそうです。
団揉は何度も繰り返し行われます。毎回布を解いて、茶葉の状態を確認しながら丁寧に団揉していきます。やりすぎても茶葉がボロボロになってしまう、団揉が足りないと煎の効かない低品質のお茶になってしまう・・・作り手の技術が試される工程です。茶葉の状態を見ながら慎重にすすめていきます。この時は本当に真剣で、別の工程では和気あいあいと話しながら作業をしていた作り手さんたちも、団揉の工程では無言で黙々と作業しています。
この日は萎凋や発酵、団揉などを見せていただきました。茶農家さんのお宅に泊まらせていただき、翌朝は早朝から開始される製茶を見せていただきます。
福建省安渓感德の伝統的製法を守り作り続けている作り手による鉄観音の12年老茶です。
2004年の春に作られた鉄観音を火入れを繰り返しながら熟成させてきました。
伝統的製法の鉄観音の入手は年々難しくなっています。お茶には流行があり、10年ほど前に鉄観音も大きく変わりました。台湾より清香型の製茶技術が伝わり、茶葉の発酵度が低く軽いものが主流になりました。
現在主流の清香型は香り高く爽やかである一方、発酵度が低く、焙煎もほとんど行われていないために保存がききません。そういった青々とした鉄観音は常温保存すらできません。冷蔵庫で半年、冷凍庫で1年といったところです。また、成分が強く、胃への負担が強いものとなってしまいました。
ビンテージの鉄観音は現在、とても入手が難しく、また本物があっても非常に高価なものになりました。この鉄観音は茶農家さんの倉庫で眠っていたものを譲っていただいたものです。終了後の再入荷はありません。