紫砂を語るには外せない黄龍山という場所があります。
山と言っても大きなものではなく、どちらかというと大きな岩の丘のようなものですが、ここは上質な泥料の原石が採れる場所として知られています。実際に泥料が採れる採掘井はいくつかあります。とても良質な原石が採れることで有名な採掘井もありますが、中でもこの黄龍山は最良質の原石が採れる場所として非常に有名な場所です。
現在は資源保護の目的で閉鎖されています。とはいえ、最良質の原石が採れることで有名な場所ですから、周囲を壁で囲んで、門にも鍵がかけられています。中にも人影などもなく、とても静かな場所になっています。
黄龍山の泥料を使用して作られた紫砂作品は最高の原料で作られたものとして、高値で取引されています。現在も黄龍山の泥料を使った作品が新たに発表されているのは、過去に採掘された原石を各作家さんや工房が大事に確保しているからです。
もちろん誰でも確保できている訳でもありませんし、確保している人が作る作品が全てその泥料を使用して作られたものという訳でもありません。特に若手の作家さんたちなどは原石の確保にも大変と聞きます。
例えば龍徳堂などは工房で良質な原石を確保していますし、売りに出されている原石を必要に応じて買い付けることもしています。それによって工房に所属する作家はその原石を使用して作品を作ることができます。
良質な原石はとても高価です。まだ名の知れていない若手の作家さんなどには難しい価格ですが、中には才能を認められたり、将来性を買われて、そういった原石などを融通してくれる場合もあります。
泥料の確保というのは紫砂にとって技術と同じ位に大変で重要なことでもあります。
宜興では最後に方壺を得意とする作家さんの工房にもお邪魔しました。
一般的に四角い方壺を作るのが得意な作家さんは、丸い球形の茶壺はあまり良くないことが多いのですが、この作家さんは珍しくどちらもとても素晴らしい作品を作ります。また、黄龍山の緑泥の扱いが非常に上手で、ともすればスカスカとした仕上がりになってしまう緑泥を本当に上手に扱います。
良い原石を入手しても、それをきちんと扱うことができるかどうかは、その作家の技術によります。
原石から陶土に加工する際の技術ももちろんですが、硬度を保ったままで作品の形にできるかどうかも技術です。殆どの作家は硬度の高い陶土の状態で細かい細工をすることができません。また技術と硬度のバランスがきちんと取れていないと、全体的にぼんやりとした造形になりがちです。もちろんセンスの問題もあります。
紫砂作品というのは本当に色々な技術と環境が合わさって生み出される道具であり、美術品です。
良質な原料を入手できる環境にあり、それを上質な陶土に加工する技術、高い硬度を保ったまま作品として完成させることができること。
本当にとても難しいことです。
茶器以外の作品であれば硬度はそれほど問われないと思いますが、特に茶壺は「お茶を淹れる道具」でもあります。見た目の美しさだけでなく、使いやすい「道具」であることはもちろん、なによりお茶が美味しくはいるように高い硬度を保っていなくてはいけません。硬度が不十分な紫砂茶壺は茶壺自体がお茶の香りや味わいを吸い取ってしまい、お茶を美味しく淹れているつもりが、茶壺に全て良いところを取られてしまいます。紫砂の性質上、ある程度、使用するお茶に合わせて茶壺を鍛えることは必要ですが、硬度の低い茶壺は締まりがあまり良くないため、時間をかけてもなかなか育ちません。硬度の高い、上質な泥料をそのまま使用して作られた茶壺はすぐに安定して美味しいお茶がはいるようになりますし、なにより養壺などを行わなくても自然と艶やかに成長していきます。
腕の良い作家の作品が人気があるのには美しさだけではなく、理由もあります。使いやすさ、扱いやすさ、なにより美味しいお茶を淹れることのできる道具として秀逸であることです。
これから茶壺を使ってみたいと思われる方にお勧めは可能な限り上質な茶壺(=価格ではありません。硬度や形の使いやすさなどです。)で、少し大き目の茶壺を選んでみてください。上質であることは先に挙げた通りですが、容量が小さいと茶葉は少なくて済みますが、湯を注ぐ際の湯量や角度のコントロールなどが非常に難しくなり、美味しくお茶を淹れる練習にはなりませんし、その感覚が掴みにくくなります。
初心者だからと敬遠する方にこそ、本当に良い茶壺を使ってお茶を楽しんでいただきたいと思います。違いを理解できる上質な道具を使うということは、お茶を美味しく淹れることができるようになる近道でもあります。
国家級助理工芸美術師の王雲雲による景船石瓢です。
彼女も青花を茶壷に描いた作品を得意とする作家で、女性らしい繊細な青花を描いた作品を多く作り出しています。
こういった青花の茶壺は使用していくうちに自然と深みを増した陶肌へ変化していきます。この青花は現在の美しさだけでなく、深みを増した陶肌になっていくにつれ、その美しさを増していきます。
とても美しい青花の茶壺です。
少し容量に余裕があるため、紅茶やプーアル茶などに向いています。
お茶会などにご参加いただいた方は何度か目にしていただいている国家級工芸美術師である湯宣武の紫砂茶壷です。
この陶然自得という茶壺は私が数年前から愛用している茶壺です。近年は全く作らない形の茶壺ですが、岩茶などの青茶を淹れる際に非常に使いやすく、湯宣武さんにお願いして復刻していただきました。